こだわりをカタチに

宇部岬駅note

ペパクラにまつわるいろいろな考察

宇部市立岬小学校のすぐ近くに立地する駅。

2009年に貨物の定期運行が終了したのはそう古い記憶ではない。

今現在(2022年)すでにセントラル硝子への石灰石輸送のための専用側線はレールも撤去されてかつての鉄路の面影は道路に残る断続的な草地のみである。

また、駅構内には駅舎隣に建屋跡を残す基礎部分が見られるのだが、この名残がJR貨物の駅だったのだろう。

これにより昭和十二年*N *Oより続いた宇部鐵道、国鉄、そしてJR貨物と続いた貨物の歴史は終了した。

そんな宇部岬駅であるが、歴史をさかのぼれば現駅舎の話は古い。

物の本*A1によれば、「創業当時の由緒ある古い建物である」とあり、開設年は大正12年であるそうで、外観上の多少の変化はあるだろうが躯体は大正時代の風情をとどめる。

最たる特徴がその屋根にある。

青く塗られたセメント瓦だろうか、瓦が葺かれた半切妻屋根に大正時代の風を感じずにいられない。

というのも、同じく大正時代の建物を見ることが出来る本*Bによると、「有帆駅前」に写る駅舎や別の本*C1の「山口県立宇部工業高校」に写る校舎(それ以外の校舎も同様)に見られるような、漆喰の矢切と壁面の横張の板が洋風建築を彷彿とさせ、大正期の建築におけるトレンドであったことを感じさせるからである。

あくまで推測であるが、おそらく竣工時は瓦屋根であり、妻には漆喰が奢られ、板目の美しい駅舎だったとすると、いかにも瀟洒なたたずまいだ。

特徴は屋根にとどまらず、建屋もまたそうなのである。

木造駅舎である岩鼻駅、床波駅と似た基本構造はそのままに、主たる駅舎母屋の棟から一段下げた屋根、各面の窓枠高さの違い、待合室内のぽつんとある柱、など増改築のあとが随所に見られ、一見しただけではわかりづらい複雑な構造になっている。

前述の本*C2によれば、「宇部村勢要覧(大正9年)」の宇部岬駅周辺は松原や田んぼばかりであり、また本*A1には「当駅前に民家が二軒しかなく岬地区全体で三十二戸」程度の人口密度である一方、近隣には東見初炭鉱、沖見初炭鉱、海からトロッコ線が続く五十目山あたりもまた産炭地だったらしく、後年には海沿いには整然と並ぶ建物群も見られるようになり、周辺の貨物輸送のニーズは強かったのかもしれない。

これは本*A1に「私共二十九名が守っている現在の駅舎」とあり、宇部岬周辺の発展と共に輸送量が増えたことに対応するため作業人員も増え、その貨物、旅客の急激な変化がこの駅舎の構造に大きく影響をもたらしたのだろう。

いかにもかつて炭鉱で栄えた町、宇部らしい変遷を遂げた駅舎なのだ。

その佇まいに歴史を感じて欲しい。

設計のポイント

半切妻屋根は当然のこと、増築を繰り返したであろう駅舎のその構造もなかなかに醍醐味があります。

デフォルメを極力除いて再現していますので、そのおかげで組立は一筋縄ではいかないかもしれません。

設計では木造建築らしい木で組まれたホーム上屋の忠実な再現を目指し、それ故に組立の難しさがありますが、出来るだけそのバランスの両立を追求しました。

また、ホーム内線路はゆるやかにカーブしておりホームにある階段(一段)にその曲げを表現する一方、Nゲージに支障の無いようにプラットホームは直線形状を基本としました。

かつて駅舎正面には広く立派な植栽があったようで、灯籠を含め前庭が広がっていたのが古い写真にあります。

往時のそれをミニチュアで再現するのもおもしろいのではないでしょうか。

ちなみに、現在過去と好きなように加工表現できるように、今現在の壁面はあえて再現していません。

引用文献

参考書籍・映像・インターネットサイト各種を下記列挙
注記:資料名最後の括弧内文字を付しているものについては、宇部市立図書館での閲覧が可能であり、その請求記号となります。(2022年9月執筆時点)

*A1 「駅長さんの書いた駅名ものがたり」 発行年:昭和五十二年 P.331 [Y0686 エ]

*A2 P.339

*A3 P.339

*A4 P.334

*A5 P.325

*B 「保存版 ふるさと宇部」 発行年:2011年 P.170 [U210 フ]

*C1 「宇部地方研究 第三一・三十二号 写真で見る大正期の宇部」 発行年:平成16年 P.55 [U210 ウ]

*C2 P.17

*D インターネットサイト「今昔(こんじゃく)マップ on the web」 (C)谷 謙二

*E1 「宇部線物語」 発行年:昭和50年辺り(明確な記載なし) P.40 [U686 ウ]

*E2 P.41

*E3 P.3

*E4 P.16

*F 「宇部鉄道 沿線名所案内」 発行年:昭和十二年 [U686 ウ]

*G 「駅舎国鉄時代1980’s」 発行年:2022年 P.56 [U686 ハ]

*H1 「ふるさとの想い出 写真集 明治大正昭和宇部」 発行年:昭和54年 P.30 [U210 シ]

*H2 14に同じ P.51

*I 「目でみる宇部の歴史」 発行年:昭和36年 P.51 [U210 メ]

*J1 「写真アルバム 宇部・山陽小野田の昭和」 発行年:2018年 P.103 [U210 ウ]

*J2 P.12

*J3 P.203

*K NHK「課外授業ようこそ先輩 出会いをアニメで記録しよう」銀天街屋根上での部分

*L 「ふるさと歴史散歩 宇部」 発行年:平成6年 P.61 [U210 ク]

*M 「目でみる神原の歴史」 発行年:昭和五十六年 P.13 [U210 メ]

*N 「宇部戦前史 一九三一年以後」 発行年:昭和五十年  P.111 [U210 ヤ]

*O 「宇部市史 通史篇」 発行年:平成五年 P.453 [U210 ウ2]

*P 「宇部市史 通史篇」 発行年:昭和四十一年 P.712 [U210 ウ]

*Q 「写真記録 日本の駅」 発行年:2009年 P.399 [Y0686 ニ]

*R 「宇部大空襲 戦災50年目の真実」 発行年1995年 最初項 [U210 ウ]